ヘンダーソンのニード論で看護アセスメントをするとは:アセスメントの具体的方法
<ヘンダーソンのニード論で看護アセスメントをするとはシリーズ>
実際にアセスメントをするときの具体的方法
アセスメントを書く用紙が目の前にあります。これを完成させるために、何をどのように進めていくのか。実際に紙上患者事例でアセスメントをすることを想定して、具体的な方法について確認していきましょう。
こちらの記事の手順を、もう少し具体的にしていきます。
0;アセスメントを始める大大前提として
【何についてアセスメントをするのか】=何のニードの充足状態を判断するのか、を把握しておく必要があります。
1、情報を集める
2、集めた情報をもとにアセスメントをする
この2つの手順だけを見ると、この順序は正解です。が、実は、この前に、0(ゼロ)として、何についてアセスメントをするのかを確認する、というのが必須です。
正確には、
1、何についてアセスメントするのかを確認する
2、↑このアセスメントをするために必要な情報を集める
3、集めた情報でアセスメントする
です。この方法で情報を集めれば、アセスメントがずれるとか、情報が足りないとか、いうことは起きにくくなるはずです。
0’;アセスメントを始める大前提として
アセスメントをするために必要な情報がそろっていることが、前提です。
例えば、呼吸。おなじみの「看護過程を使ったヘンダーソン看護論の実践」最新版(第4版)は、こちら→ 看護過程を使ったヘンダーソン看護論の実践。巻末に「基本的看護(基本的欲求)の充足した状態および情報収集項目」という章があります。 下は、呼吸のニードに関する内容の一部です。
わけなんですが、ガス交換が正常に行われているかどうか、安楽に呼吸ができているかどうかを判断するための情報である、ということを理解していることが重要です。情報の項目だけを覚えても仕方がない。ここ、重要です。
何を判断するために必要な情報なのか、充足状態とそれを判断するために必要な情報、この2つはかならずセットです。
そうしないと、ですね。参考書を参考にして、情報を集めました。っで、私は次に何をすればいいんですか? といきなり迷子になります。
❌ 情報を集める
⭕ アセスメントをするために必要な情報を集める
ここ、本当に重要です。ここをおさえておくだけで、情報を集めながらアセスメントが進みます。
上は、
アセスメントをするために必要な情報を集めている場合です。なんのためにその情報を集めているのかがわかっているので、集めながらアセスメントができて、かつアセスメントができることで、今のところの判断を裏付けするのにさらに必要な情報は何かに気づいて、必要な情報を追加できます。さらに、追加した情報も加えてアセスメントできる。ということを、ほぼ同時に進めていくことができます。
下は、
とりあえず情報を集めました。っで、どうしたらいいのか、わからず悩む迷う時間があって、これをアセスメントに使うんだということがわかって、アセスメントをやってみるわけですが、そのために必要な情報、ということを意識せずに集めているので、アセスメントをした後不足している情報に気づいて、そこからやっと「アセスメントに必要な情報」を集め始めることになります。
横軸は、時間の経過です。図はイメージですが、「アセスメントをするのに必要な情報を集める」ことができる場合と、できない場合の、作業の進み具合に差が出ることを、イメージできると思います。
何についてアセスメントするために、どんな情報が必要なのか。情報収集を始める前に、要チェックです。
1、アセスメントをするのに必要な情報をもとに、充足・未充足を判別
アセスメントをするのに必要な情報を集めることができたら、情報を読み取って、整理していきます。
少し乱暴にまとめてしまうならば、集めた情報を「正常、異常」の2つに分けます。(厳密には、きっちりこの2つに分けることはむずしいかもしれませんが。イメージです)
異常=気がかりな情報、というのは、看護問題=ニードの未充足、につながる可能性が高いです。逆に、正常を示す徴候は、看護問題につながる可能性が低いです。という理由で、この先の作業をしやすくするために、情報を整理します。
情報を分ける=整理する ときに、実は「解釈」という作業を行っています。
情報を分けるということは、何かしらの基準を持って、良い・良くない、正常・異常、気がかりではない・気がかりである、ということを判断しているわけですよね。この判断が、「解釈」を呼ばれるものです。情報を読み取る、という作業です。
解釈という作業によって、
・正常なガス交換ができている
・安楽な呼吸ができている
と判断できる場合は、充足。これらができていないと判断する場合は、未充足。これが、充足・未充足を判別するということ。
解釈という作業によって、結局のところ、そのニードは満たされているのか、満たされていないのか、を判別する、ということです。
ここで、未充足だという結論になった場合、続きがあります。
2、未充足の原因・誘因を確認
未充足になっているのはなぜか?その原因・誘因を探っていきます。
ヘンダーソン理論では、未充足の原因・誘因として、「常在条件」「病理的状態」を手がかりにしましょう、としています。
常在条件や病理的状態が、ニードの未充足に影響している可能性が高いですよ、ということ。
出典;看護過程を使ったヘンダーソン看護論の実践 より
同参考書には、常在条件とは何か、病理的状態とは何か、について、具体例をあげて解説されています。それらと、患者さんの状態、状況とを照らし合わせて、「この」患者さんの場合、何が原因で、未充足になっているのか、を確認します。
原因・誘因は、断定できないことや、ひとつに絞れないことがあります。勘(かん)ではまずいですが、可能性として考えられる原因がある場合、2つ以上の可能性がある場合は、それぞれをあげておいて良いと思います。
その理由は、
現在の「未充足」な状態を引き起こしている原因(可能性を含む)が、これとこれだろう、と考えた時、未充足→充足の状態に改善させるために、それらの原因を減らしたり、取り除いたりしますね。
これが、実際の看護計画の内容になるわけですが、実施をしながら効果の出るケアとそうでないものを確認できるためです。
大事なことは、原因が何かをはっきりさせること、ではなく、結果として未充足の状態が、充足状態になること、です。そのためには、どんなケアが効果があって、どんなケアが効果がないのか、実際にケアを行なってみる以外に確認する方法はありません。
原因がはっきりしないなぁ、原因なんだろうなぁと考えている間は、患者さんの状態は変わらず、未充足のままです。それよりは、原因はこれとこれだといえそうだ、と仮説を立てて、それを検証すべく、実際に看護を行なっていくことが状態を改善する近道です。
3、確認した原因・誘因から、何の不足によって未充足状態になっているのかを確認
ヘンダーソン理論では、「人間は、その人にとって十分なだけの体力、意志力、知識があるとき、その人によってニードを満たすことができる」としています。
その人にとって十分なだけの体力、意志力、知識がないとき、ニードを満たすことができません。その人が、その人のニードを満たすために手助けが必要になる、この手助けが、ヘンダーソン理論でいうところの「看護」というわけです。
つまり、その人にとって必要な手助け=看護をするためには、体力、意志力、知識のうち、何がどれほど不足しているのか、を把握する必要がある、ということです。
体力、意志力、知識のうち、何がどれほど不足しているのか。どれも、数や量で測れるものではないため、判断することがむずかしいように感じるかもしれませんが、かんたんに言い換えると、2、で確認した「原因・誘因」は、それぞれ、体力、意志力、知識のうちの、どれにあてはまるか、ということです。
例)消化器官の病気によって、消化器官が正常にはたらかないために食欲がない。摂取量も少なく、十分な栄養がとれていない。というとき、飲食のニードが充足していないと言えます。
この場合、ニード未充足の原因は、消化器官の病気によって、消化機能が低下していること →これは、体力の不足を意味しています。
例)高血圧で塩分制限を守らなければいけない状況で、「ほんの何グラムかの塩分を制限したぐらいで、血圧に影響があるとは思えない」という認識で、過剰に塩分を摂取している。というとき、必要な栄養を必要なだけ摂取できていない、ということで、飲食のニードが充足していないと言えます。
この場合、ニード未充足の原因は、高血圧を予防するための塩分制限の目的、塩分と高血圧の関係などの十分な理解ができていないこと →これは、知識の不足を意味しています。
こんな具合に、2、で確認した原因について、それは「何の不足」に当てはまるのか、を確認します。
↑この確認によって、その人の場合、何が不足して、何のニードが未充足になっているため、どんな援助によって(何を補うことで)、未充足の状態を改善できるのか、を判断しやすくなります。
<体力、意思力、知識(用語の説明より)>
体力(strength)・・・強さ、健康体、特に病理的状態に左右される
意思力(will)・・・意志、意欲、特に14項目の基本的欲求を油分の意思で自立に向けていく力。特に基本的ニードに左右される
知識(knowlegde)・・・知っていること、理解していること。特に、常時存在する条件に左右される
「用語の解説」のはずなのに、なんだかわかるような、わからないような。初めて読んだ時には、すっきりしなかったんですが、今言い換えるならば・・・。
体力・・・身体的側面に関係すること
意思力・・・心理的側面に関係すること(思考、気持ちなど)
知識・・・これは、文字のまま、知っていること。あることを知らないことが原因で、あるニードが未充足になっているとき、知識の不足。
いつも、原因はどれかひとつ、というわけではなく、2種類の不足になることも、3種類の不足になることもあります。
違いがわかりにくいとき、「覚えよう」とするより、参考書などに載っているできあがりのアセスメントを参考に、この場合の未充足の原因は、3つのうちのどれかな、を確認して、参考書の答えをもとに答え合せをしていくといいです。繰り返しによって、違いを理解できるようになります。
ここまでの作業の内容をまとめる
ここまでの作業の内容を、文章にまとめます。
- 何についてアセスメントをするのかを確認します。
- 参考書で、ニードごとに、そのニードが充足している状態とは、どんな状態をさすのか、を確認します。
- アセスメントするのに必要な情報を集めます。
- 参考書を参考に、何についてアセスメントするのに、どんな情報が必要なのかを確認します。っで、それらを、患者さんに直接うかがったり、カルテで確認したり、観察や診察などによって集めます。
- 集めた情報を解釈していきます。
- それぞれの情報をどのように捉えたのかを確認して、【結局のところ、ニードは充足しているのか、充足していないのか】を判別します。
- 充足、未充足の判別の結果を述べます。情報整理によって確認した情報が、すべて「問題なし、正常、良好」だと判断できる場合は、「充足」だと判別できます。その場合、情報を並べて、それぞれの解釈を添えて、●●のニードは充足している、とまとめて終了です。充足だと言えない=未充足であると判別した場合、次に進みます。
- 情報整理によって確認した「気がかりな情報」を並べて、それらをなぜ気がかりだと判断したのか、その理由(解釈した内容)プラス、充足状態のフレーズを使って、未充足だと判別した旨を述べます。
- 例)呼吸回数、酸素飽和度が基準値より低い。また、息苦しさを認めていることから、十分なガス交換ができていないことにより、安楽な呼吸ができていないといえる。
- なぜ、未充足の状態(ガス交換ができていない、安楽な呼吸ができていない状態)になっているのか、原因・誘因について述べます。特別書き方の約束などがない場合は、箇条書きでも良いです。
- 例)左心不全により、左房圧の上昇にともない肺うっ血を生じているため。
- なぜ、未充足の状態(ガス交換ができていない、安楽な呼吸ができていない状態)になっているのか、原因・誘因について述べます。特別書き方の約束などがない場合は、箇条書きでも良いです。
- それぞれの原因について、それは何の不足を意味するのか、を述べます。
- 例)左心不全により、左房圧の上昇にともない肺うっ血を生じているため。→体力?意志力?知識? どれが当てはまりそうか→体力
- ここまでの内容もとに、「何の不足によって、何のニードが未充足になっているのか。だから、どんな援助が必要になるのか」とまとめます。
ヘンダーソン理論でアセスメントした文章、参考書などに載っているできあがりのアセスメントを見ると、基本的にこの形になっていると思います。
できあがりだけ見ると、「どうすれば、その形になるの?」できあがっていく途中が見えないことが多いです。というわけで、できあがっていく途中について、お伝えしてみました。
ご紹介した参考書がおすすめな理由は、もうひとつ。再び、巻末に「ヘンダーソンの基本的看護に関する看護問題リスト」というのが載っていまして、ニードごとに「このニードが未充足状態になる場合、こんな看護問題があがりそうだよ」と親切にまとめてくださっています。ありがたい。使わない手はありません。すでにお持ちの方は、巻末ものぞいてみてくださいね。
<第4版>
- 作者:秋葉 公子,玉木 ミヨ子,村中 陽子,江崎 フサ子
- 出版社:ヌーヴェルヒロカワ
- 発売日: 2013-12